今回は「僕たちがなぜゲストハウスをやろうと思ったのか」についてお話ししたいと思います。
「ゲストハウスって何だっけ?」
という方もいると思うのですが、僕たちがやろうとしているのは1日1組限定で利用してもらえる、民宿のようなものです。
うちには母屋(古民家)と脇屋(家主の居住スペース)があり、母屋を使う頻度は割と低いので、そちらをお客さんに使ってもらいます。
それでは本題に入りまして。
ゲストハウスを始めたのは、僕が仕事をやめるときに考えたことがきっかけです。
目次
会社をやめるときに考えた「3つの後悔」
僕は2年ほど前に約12年勤めた会社をやめたのですが、やめるにあたって考えたことが「今日死ぬとしたら何に後悔するか」ということでした。
この問いかけは割と世間でも有名で、マッキントッシュやiPhoneを世に生み出したスティーブ・ジョブズのスピーチがよく知られています。
▲「今日死ぬとしたら」の部分は8:48〜。素晴らしいスピーチなのでできれば全部聞いてほしい
かつての自分は「今日死ぬとか極端すぎるのでは……」と思って、真剣に考えることはありませんでした。
でも単身赴任をきっかけに、これまで抱いていたモヤモヤが一気に大きくなり「自分は本当のところ、どうしたいんだろう……」と深く悩みました。
35歳にもなって今さら「何がしたい?」なんて悩みはちょっとおかしいんじゃないの?
そんなツッコミはもちろんあると思います。
かく言う僕自身も同じツッコミを自分に対して何百回と浴びせてきました。
そりゃそうですよね。子ども3人を抱えた35のおっさんが今さら「何がしたい?」なんて、そんな漠然とした問いかけ、
- 今さら遅くないですか?
- 親としてどうなんですか?
- ちょっと夢見てるんじゃありませんか?
みたいなツッコミはいくつもいくつも頭に浮かんできます。
でも、この「本当のところはどうしたいのか」という問いは、無視してはいけないように感じたのです。
自分に対してだけでなく、妻や子どもたちの将来にも深く関わってくる、大切な問いになると思いました。
そして「今日死ぬとしたら何に後悔するか」という問いに、真剣に向き合うことになります。
その結果、自分が死ぬときに後悔するのは
- 家族との時間を持てなかったこと
- 親孝行ができなかったこと
- 今までお世話になった人に感謝の気持ちを伝えられなかったこと
の3つでした。
当時やっていた仕事でやり残したことがあるからといって後悔することは無いし、フェラーリに乗れなかったからといって後悔することも無い。世界一周できなかったのは残念だけれど、後悔まではいかないな、と。
そんなことを考えて、退職を決意します。
そのまま仕事を続けていては、この3つから少しずつ遠ざかっていくように感じたからです。
もちろん会社をやめたからといって、この3つがすぐさま達成されるなんてことはありません。すべてはこれからの自分にかかっているわけです。
会社を辞めて地元にUターンしたことで、「家族との時間」「親孝行」に関してはかなり理想に近づけているように思います。少なくとも理想に近づくことのできるルートに入った感覚はありました。これから時間をかけていけば、もっと自分の納得できる形にすることができるでしょう。
でも3つ目の「今までお世話になった人に感謝の気持ちを伝える」という部分。
これはUターンだけでは実現しなさそうでした。
ゲストハウスを通じて価値観と感謝を伝える
お世話になった人に感謝の気持ちを伝える場合、パッと思いつくアクションとしては
- 手紙やメールなどでお礼を伝える
- 会いに行ってお礼を伝える
などでした。でも、どれもいまいちピンときません。
手紙やメールでは恐らく感謝の気持ちがうまく伝わらないし、相手の反応もわかりません。
一方で相手に会いに行く場合は、予定を合わせて相手の家や近くの場所で落ち合うことになると思います。でも、そもそも何年も会っていない人の場合、いきなり深い会話を進めることができるでしょうか?
ちょっとイメージできませんでした。
そもそも相手と深いコミュニケーションをとる場合、「会うべきタイミング」というものがあって、それはこちら側の一方的な思いだけでは成り立たないからです。
そこで思いついたのが、
”相手の好きなタイミングで来てもらえるような場所を作って、そこでのおもてなしを通じて感謝の気持ちが伝わるようにしてはどうか”
ということでした。
言葉だけでは伝えられないような、「自分たちが大切にしている価値観」のようなものを感じてもらえるような空間を作れば、会話が無くとも気持ちが伝わるのではないか。そう思ったのです。
この考えにはとてもしっくりときました。
時間を取り戻すゲストハウス
自分たちが大切にしている価値観を感じてもらえるような空間を作り、それをゲストハウスとして提供する。ゲストハウスの滞在を通して感謝の気持ちを伝える。
ゲストハウスの成り立ちはこのようなものでした。
加えてこのような価値観をより鮮明に、具体的に表すためにも「キーコンセプト」が必要だと感じていました。
パッと思いついたのは、『モモ』の価値観です。
『モモ』はドイツの作家ミヒャエル・エンデが書いた児童向けの物語です。
イタリア・ローマを思わせるとある街に現れた「時間貯蓄銀行」と称する灰色の男たちによって人々から時間が盗まれてしまい、皆の心から余裕が消えてしまう。しかし貧しくとも友人の話に耳を傾け、その人に自信をとりもどさせてくれる不思議な力を持つ少女モモが、冒険のなかで、奪われた時間を取り戻すというストーリー。
ーウィキペディア「モモ (児童文学)」より引用
初めて『モモ』を読んだのは、小学校5年生のときだったと思います。子どもながらに「この物語は単純な冒険物語ではない」と感じていました。何か重要な、大切な考え方が書かれているような気がしたのです。
そして月日は流れます。
改めて『モモ』を手に取ったのは、仕事をやめるかどうかで悩んでいたときでした。
25年ぶりに読む『モモ』は、以前読んだときと変わりなく、素敵な読後感と深い洞察を与えてくれる物語でした。そして仕事をやめるかどうかで悩んでいた自分に、あたたかな励ましをくれました。
自分が大切にしようと思っているもの、そしてそのために取ろうとしている行動を、物語を通じて応援してくれているように感じたのです。
『モモ』のテーマは「時間」です。そして自身が悩んでいたのも、突き詰めて言えば「時間」の在り方でした。
ゲストハウスは、誰にとっても大切な時間を今一度見つめ直せるような、そんな場にしよう。それがきっと感謝の気持ちを伝えることにつながるのではないか、そう思いました。
そのような経緯で、「時間を取り戻すゲストハウス」として開業することにしたのです。
次の話→【どこにもない家の話 その2】ゲストハウスの名前の由来は『モモ』から
〈写真:かんき〉
追記:2019/9/5 クラウドファンディング「ゲストハウス『どこにもない家』に泊まりに来てほしい!」を達成しました!
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